東京高等裁判所 昭和39年(ツ)78号 判決
賃借地上の建物の所有者が、その建物を他に譲渡するときは、特段の事情のないかぎり、右建物の譲渡に伴つて借地権をも譲渡するか、あるいは場合によつては転借権を設定するものであり、反面建物の所有権の変動のない建物のみの賃貸借においては、借地権自体にはなんら変動がないものと解するを相当とする。けだし、右のように解することが右のような取引での当事者の意思に合すると解せられるし、実質的にも、土地賃貸人、賃借人、借地権の譲受人あるいは転借人間の土地の使用関係を明瞭ならしめ、右各当事者間の無用な紛争を生ぜしめないからである。しかして、右の理は、借地上の建物所有者が売買代金分割支払の約定で建物を売渡す際、買主の代金の支払を担保する目的で、代金完済まで建物の所有権を自己に留保するとともに、建物の賃貸借の形をとり、賃料名義で右分割代金を徴収して、買主に建物を使用させる場合にも特約または特別の事情のない限り、代金が完済されて建物の所有権が移転するまでの間の関係にもあてはまるものであつて、買主が代金を完済して、建物の所有権が買主に移転したときに、初めて、借地権の譲渡又は転借権の設定の効力が生ずるものと解するを相当とする。
原判決によれば、原審は当事者間に争いのない事実として「上告人と訴外大同製鋼株式会社(以下「大同製鋼」という)との間に昭和一六年四月一日、上告人が訴外木島栄次郎から賃借した同人所有の本件土地を、普通建物所有の目的で大同製鋼に賃貸(転貸)する旨の契約が成立した。それと同時に上告人は大同製鋼に対し、上告人が本件土地上に所有していた建物を、期間同日以降一五年間、大同製鋼が一五年間の建物の賃料を完済したときは右建物の所有権が当然大同製鋼に移転するとの約定で賃貸した。」旨確定し、右事実により、上告人と大同製鋼との間の右本件土地の賃貸借は、その効力の発生を、訴外会社が前記賃料(原判決は「家賃」という名称を用いるがこれは建物の賃料をいうものにほかならない)全額を完済し、右建物の所有権を取得することにかからしめたものと認めるを相当とすると判示していること明らかである。右事実の確定は、本件記録に徴し肯認することができ、これに基く原判示の判断は、上段判示に照らしても、十分正当として肯認することができる。
(村松 江尻 杉山)